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『囁く影』 ジョン・ディクスン・カー ハヤカワ文庫HM

2012-06-10

☆☆☆☆

パリ郊外の古塔で奇妙な事件が起きた。だれもいないはずの塔の頂で、土地の富豪が刺殺死体で発見されたのだ。警察は自殺と断定したが、世間は吸血鬼の仕業と噂した。数年後、ロンドンで当の事件を調査していた歴史学者の妹が何者かに襲われ、瀕死の状態に陥った。なにかが“囁く”と呟きながら。霧の街に跳梁するのは血に飢えた吸血鬼か、狡猾な殺人鬼か?吸血鬼伝説と不可能犯罪が織りなす巨匠得意の怪奇譚。改訳決定版 内容紹介より



〈殺人クラブ〉主催によるディナーの招待客である歴史学者マイルズが“ある理由”のために遅刻してクラブに到着すると、そこに会員の姿はなく当夜の講演者であるフランス人教授と正体不明の女性しかいなかった。物語の最初からこんな奇妙な状況を仕掛ける手並みが鮮やか。そして教授は女性の勧めるまま演題だった彼自身が体験したフランスで起きた不可能殺人と事件にまつわる吸血鬼の噂を二人に披露する。その後、マイルズと謎の女性の二人だけの場面になり、彼女が今夜のクラブについて仕組んだ事実を打ち明け、事件の容疑者だったイギリス人女性の話題を持ち出す。教授から女性へと行う場面転換と話の受け渡しが上手い。そして、マイルズが一人になって投宿しているホテルへ戻ると、当初読者に伏せられていた彼の遅刻の理由とそれに関連する人物の名前が明かされ、読んでいる方もぞくっとして物語にのめり込むという流れです。これらが僅か81ページで描かれ、作者のそつが無い構成力を感じました。
それから、ある人物の身を案じたマイルズたちがその人物のもとへ駆けつけるために地下鉄で向かうのですが、車内での二人の会話にしばしば挿まれる車掌の駅名を告げる声が、徐々に目的地へと近付きはするが、なかなか到着しないもどかしさや、果して間に合うのかどうか、ハラハラドキドキ感を高める効果を上げています。また貸家から見える巨大な義歯の電動ディスプレイとか小道具の使い方も見事です。

以下、ネタバレしています!ご注意下さい。




本書に登場する不可能犯罪に関しては、いわゆる被害者自身が意図的あるいは偶然に不可能犯罪に見える状況を作ってしまったという、たまに見受けられるがっかりパターンのひとつでした。

『猫と鼠の殺人』ディクスン・カー 創元推理文庫




囁く影 (ハヤカワ・ミステリ文庫 5-8)囁く影 (ハヤカワ・ミステリ文庫 5-8)
(1981/06)
ジョン・ディクスン・カー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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