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『この町の誰かが』 ヒラリー・ウォー 創元推理文庫

2012-10-13

☆☆☆☆

クロックフォード―どこにでもありそうな平和で平凡な町。だが、ひとりの少女が殺されたとき、この町の知られざる素顔があらわになる。怒りと悲しみ、疑惑と中傷に焦燥する捜査班。だが、局面を一転させる手がかりはすでに目の前に……!警察小説の巨匠がドキュメンタリー・タッチで描き出す《アメリカの悲劇》の構図、MWAグランドマスター賞受賞第一作。解説・若竹七海 内容紹介より



かつて住民の多くが農業や漁業に従事する人口三千人だった町が、ベッドタウン化するとともに様々な職業に就く者が住む、一万八千人の町に。しかし、町の姿は、古い屋敷や新しい家が入り混じる、自然環境に恵まれた快適な町であり、まれに窃盗や強盗事件が起きたり、若者たちの間に薬物の問題が持ち上がったりしていても、荒廃などとは無縁の町。こういうあくまでも普通の町であるという文言が読者へ意識付けるために頻繁に出てきます。そんな場所で発生した一件の殺人事件が町と住民たちを根底から揺るがす様を描いた、社会派ミステリとも言える優れた作品。
ストーリーは被害者の家族、友人、知人や警察官、町の住民への聞き取りや会合の議事録というユニークな形で著されてます。事件とは直接関係のない物事や発言も記すという手法のために、警察の調書や聞き込みのメモとは違って、事件や被害者についてだけでなく、自分や他の住人のこと、町についての考えや意見も明らかにされ、それぞれの内面や裏側が語られています。ただ、司祭の妻の証言など冗漫に感じる部分もありました。
事件に対処する警察への不満が高じて暴動が起きかけたり、余所者の浮浪者である容疑者へリンチを振るう雰囲気になって人間の内に潜む暴力志向が露わになり、あり得ないと思われていた人種差別やこれまで存在が許容されていた心に障害を持つ者、同性愛者という社会的弱者や自分たちとは異質なものへの偏見、排斥が事件を契機に表に吹き出してしまう状況へと陥っていく様子が作者の狙い通りに巧みに描き出されていました。また、終盤にかけての部分など、サスペンスミステリとしても趣向を凝らし、テクニックが冴えている作品でもあります。

ユーザータグ:ヒラリー・ウォー



この町の誰かが (創元推理文庫)この町の誰かが (創元推理文庫)
(1999/09)
ヒラリー・ウォー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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