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『ソ連に幽霊は存在しない』 レジナルド・ヒル ハヤカワ・ミステリ

2012-10-28

☆☆☆☆

後ろから突き飛ばされた男の顔から笑みが消え、かわりに驚愕の表情が浮かんだ。恐怖に顔をひきつらせ、必死にバランスをとろうとする。だが、こらえ切れずにエレベーターに足を踏み入れた男は、そのまま床を通り抜け、断末魔の悲鳴をあげながら落ちていった!現場に駆けつけたチスレンコ主任捜査官は、死体も突き飛ばしたほうの男も発見できなかった。党の大物委員長から要求されたことはただひとつ、ソ連に幽霊は存在しないことを証明し、この騒ぎが悪意に満ちた西側帝国主義諸国の陰謀であると暴きだすことだった。しかし、大勢の目撃者に会い、調査をすすめればすすめるほど、事件の不可解さは深まって……。ペレストロイカ以前のモスクワを舞台に官僚機構を襲った幽霊騒ぎの顛末を描く表題作ほか、英国ミステリ界の鬼才が皮肉とユーモアをこめて贈る、ヴァラエティ豊かな傑作短篇集。 内容紹介より



「ソ連に幽霊は存在しない」
本来、社会主義国家においては、犯罪や浮浪者は存在しないと同様に幽霊も存在しない。国家機関の運営本部があるビルで起きた幽霊騒動の捜査を任された主人公は、この不可解な現象に頭を悩ませた末、集団ヒステリーということにして事件の幕引きを図ろうとする。しかし、党の権力者から捜査の続行を命じられた彼は、事件現場のエレベーター自体の来歴を調べるうちに奇妙な事実を発見する。非常に無機質なイメージのある社会主義体制下における官僚制度と、その下で持ち上がったかなり俗的かつ人間くさい幽霊騒動との対照の妙や、さらに、不条理性やアイロニカルが効いた作品でもあります。

「子猫ちゃんを連れ戻して」
職を失った元旋盤工の新米探偵がある家の主婦の依頼を受け、行方不明になったペットの猫を捜す話。家にはその主婦以外に多額の金を手に入れてリタイアした夫と思春期の娘と息子がおり、探偵が調査を進めるうちにギクシャクした家庭関係が明らかになっていく。手馴れたストーリー展開と意外な結末が見事な短篇ミステリの見本みたいな作品でした。

「プル・リング」
第一次世界大戦中のフランスに設けられた新兵訓練所に送られたイギリス兵と彼らをしごく指導教官の話。特に一人の新兵につらくあたる指導教官が持つ理由とは……。ミステリではなくて、一種の人情噺。

「踏みにじられて」
レジナルド・ヒルの実際の作品を原作とした映画を撮影中に、現場で起きた出来事を描くという設定のメタフィクション形式の作品。盛りを過ぎた男優と演技経験はないが夫である監督に引きたてられた女優との関係が軸になってストーリーが進みます。新米女優の大根ぶりに辛らつな態度をとっていた男優が、後のない自分の俳優生命を考慮し、作品の成功のため女優に演技指導を行ううちに彼女と関係を持ってしまう。「しょぼしょぼの顎髭をはやした男」という作者自身の自虐的な描写を取り入れつつの実験的作品?

「かわいそうなエマ」
嵯峨静江氏の訳者あとがきによると、本作はジェーン・オースティンの『エマ』の後日談だそうです。読んだことがないので、機会があれば読んでみよう。いわゆる「それから二人は末永く幸せに暮らしました」の部分をかなりスノッブに処理したもの。格好良く賢かった新郎もやがてぶくぶく太って下品になり、仲のよかった兄弟姉妹も財産をめぐって争うという現実的で身も蓋もない話。

「混みいった時間」
宝石店を襲う計画を立てた二人組の強盗たちは、まず店主を狙って自宅に押し入るがそこには宝石商の妻しかおらず、夫は外出したという。二人組はその妻を人質にし、主の帰りを待つことにする。なかなか帰ってこない夫を待つ妻の不安と恐怖が描かれるとともに、意外な事実が明らかにされる。くどくどと詳細を語らず、余韻を残す終わり方が巧みな作品。

ユーザータグ:レジナルド・ヒル




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レジナルド・ヒル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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