『ベストセラー「殺人」事件』エリザベス・ピーターズ 扶桑社ミステリー

2017-07-26

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☆☆☆☆

世紀の大ベストセラー「氷のなかに裸で」の原作者キャスリーンの失踪から七年後、続編の出版が決定した。厳選なる審査のすえ、続編の執筆者に抜擢されたジャクリーン。彼女はよりよい原稿を仕あげるべく、原作者が暮らしていた田舎町に活動の拠点を移した。だが、過去の資料をひもとくにつれ、彼女に関する謎は深まるばかり。しかも、偶然とは思えない事故が重なり,ジャクリーンの身に危険がせまるようになり……。1989年度アガサ賞受賞、本格ユーモア・ミステリー。〈解説・穂井田直美〉 内容紹介より



大ベストセラー小説の著者キャスリーンは、幾度か事故に見せかけて命を狙われた末に行方がわからなくなった。殺人か、自殺か、失踪か、判らないまま彼女が行方不明になって七年後に死亡宣告がなされる。それとともに家族の要望でベストセラーの続編が書かれることになり、公募された作家のなかから選ばれたヒロインはキャスリーンが生まれ育った町に執筆の調査のために赴くが、彼女にも事故や謎の出来事が降り掛かってくる、という展開です。これまでは大学図書館の司書だったヒロインは、『ロマンス作家「殺人」事件』を経て、本書からロマンス作家に変わっています。司書時代の豊富な読書経験に加えて独立心旺盛、したたかで辛辣でSっ気のある性格、目から鼻に抜けるような聡明さ、こういう気質が今回はプラスに働いていて大変魅力的でした。このシリーズは、主人公のキャラクターで読ませる作品なので、ヒロインのキャラクターのさじ加減で評価が変わりそうです。一方、ミステリでは,動機はともかく、真犯人の行動がふに落ちません。三度も犯行を重ねていたら、被害者の家族が異変に気づきそうですけれど……。ただ、ある人物の正体は結構意外でした。

『リチャード三世「殺人」事件』
『ロマンス作家「殺人」事件』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『州知事戦線異状あり!』トロイ・クック 創元推理文庫

2017-07-22

Tag :

☆☆☆☆

総勢123名もの人間が立候補した狂乱のカリフォルニア州知事選挙も投票日まで残り二週間。ところがここへきて、有力候補が相次いで死亡する。とある有力候補が当選確率を上げるため、殺し屋コンビを差し向けていたのだ。一方、政治家一族の出にもかかわらず、大の政治嫌いのため私立探偵もどきを営むジョン・ブラックは、現職ロサンジェルス市長にして有力候補のひとりである実姉エレオノールが狙われたことを知り、頼れる相棒のハーリーと,姉を守るべく動きだすのだった。才人クックが政治の世界に投げこんだ,破天荒かつ痛快なる傑作犯罪小説。 内容紹介より



政治(家)嫌いで、自然破壊を憂う主人公の姿、そしてかなり逝っちゃってる彼の相棒と素人殺し屋コンビのキャラクター、俳優、プロレスラー、元ギャングのラッパーといった州知事選立候補者の面々、こういった登場人物のエキセントリックぶり、加えて当選するためには殺人もいとわない候補者の存在が、『最高の強盗のための47ヶ条』よりもカール・ハイアセンの作品をさらに彷彿とさせました。ただ、ハイアセンの作品では人が殺される場面はなかったと思いますが、本作では結構ばんばん人が殺されていくところが相違点かもしれません。といっても殺し屋の凸凹コンビのどたばた具合と彼らに協力する爆弾オタクのクレージーぶりが陰惨さなど微塵も感じさせません。それに対して、身内想いでいってみれば青臭い信条の持ち主である(結果的に汚いことは相棒に任せてしまう)主人公の造形がバランスを取っているといえるのでしょうけれど、強烈な個性の持ち主たちに対比させられる始末になって、良い子過ぎる存在が物足りない気にもなりました。

『最高の銀行強盗のための47ヶ条』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『殺しの儀式』ヴァル・マクダーミド 集英社文庫

2017-07-19

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☆☆☆☆

イギリス中部の大都市で連続殺人事件が起った。犠牲者はすべて男性だ。きれいに洗われた死体にはむごい拷問の跡。血眼で犯人を追う警察は内務省から心理分析官トニーの応援を頼んだ。警察内部の冷ややかな目を背に、女性警部補キャロルとチームを組んで息づまる捜査が始まった。犯人は同性愛者か!? そして、さらに犠牲者が……。CWAゴールド・ダガー賞受賞の迫真のミステリー!! 内容紹介より



テレビドラマではあるのでしょうが、小説ではほとんど見かけたことがない犯罪心理分析官を主役した作品です。彼と警察との連絡係の警部補をヒロインに据えています。プロファイリングをうさん臭く見る傾向が強く、また、女性軽視が残る警察組織という環境のなかで、いわば異質な者同士がコンビを組んで捜査に当たる設定を用いています。さらに犯罪被害者をすべて男性にして、従来多かった女性の被害者のパターンを覆して見せ、男が被害者だったら言わないであろう「夜中に出歩くな」、という声を取り上げて揶揄したりします。このような男女の立場の逆転、ゲイへの差別意識、人権を無視した不当逮捕の犠牲となった人物を描いて、権力による人権侵害を暗に批判するなど、作者のメッセージが強く込められていると言えるでしょう。一方、早々と物語からいなくなった警視の存在、警察官と密会する女性新聞記者の人物造形とストーリーへの貢献度が中途半端に感じました。女性作家に多く見られる繊細な心理描写というスタイルはこの作者には見られず、木目が粗い感じがしました。

『殺しの四重奏』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『イン・ザ・ブラッド』ジャック・カーリイ 文春文庫

2017-07-14

☆☆☆☆

刑事カーソンが漂流するボートから救い出した赤ん坊は、謎の勢力に狙われていた。収容先の病院には怪しい男たちによる襲撃が相次いだ。一方で続発する怪事件—銛で腹を刺された男の死体、倒錯プレイの最中に変死した極右の説教師……。すべてをつなぐ衝撃の真相とは?緻密な伏線とあざやかなドンデン返しを仕掛けたシリーズ第五弾。 内容紹介より



以下、ややネタバレしています。ご注意下さい!


「最初に真相を設定し、そこから逆算してストーリーやプロットをかっちり堅牢に組み上げ、伏線あるいはヒントを丹念にちりばめた上で、それらを「読者が真相に感付かないように」配置する、きわめて緻密な構成を採用している」(p423)、と酒井貞道氏が解説に記しているように、この作者の小説作法はまず極めて意外な真実を設けて、そのまわりに迷路を張り巡らせるものだということがこの作品でようやく気が付きました。大ドンデン返し、急転直下の効果、悪く言うならサプライズありきでストーリーが構築されているのですね。この効果を見事に成功させるためには意外な真実へと向かう迷路が直線だったり、単純至極な路ではなくて、当然入り組んだものでなくてはなりません。この迷路にあたる伏線、トリック、エピソード、脇道などの物語の枝葉末節が今回はこれまでの作品に比べてやや弱い、あるいは冗長、そしてあざとい感じがしました。よく比較されるディーヴァーとは、話の膨らませ具合や作品全体をみたときの完成度の違いがわかるような気がします。怪しい行動をする博士を物語に挿みつつ、アイラ・レヴィンの『ブラジルから来た少年』のクローンを想像させるようなミスリードを仕込んでいる点は巧いと思います。

ユーザータグ:ジャック・カーリイ




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『蜘蛛の巣』ピーター・トレメイン 創元推理文庫

2017-07-10

Tag :

☆☆☆☆

緑豊かなアラグリンの谷。その地を支配する氏族の族長エベルが殺された。現場にいたのは血まみれの刃物を握りしめた若者。犯人は彼に間違いない。事件はごく単純なはずだった。だが、族長の妻の要請で都から派遣されてきた裁判官フィデルマは、この事件にどこか納得できないものを感じていた。古代の雰囲気を色濃くたたえる七世紀のアイルランドを舞台に、マンスター王の妹で裁判官・弁護士でもある美貌の修道女フィデルマが、その明晰な頭脳で次々と事件の糸を解きほぐしてゆく。ケルト・ミステリ第一弾。 上巻内容紹介より



七世紀のアイルランドにおいては、犯罪に対して“懲罰”ではなく、“償い”で解決しようとする法律があったり、障碍者を罵ったり嘲笑したりすると罰せられたり、修道院などの宗教施設では男女を区別することなく受け入れ、法廷弁護士、裁判官の地位に女性が就くことは珍しいことではなかったという、これらのことを知ると現代より先進的な部分があったことに驚きます。 
アイルランドにおいて、ローマ教会がケルト教会を蚕食していくにつれ、これらの概念が廃れて間違った方向へ行こうとする傾向が見え始める時風を背景に、その理念を備えた女性であり、宗教と法律に深い知識を持つヒロインが地方で起きた殺人事件を探る物語。権力者の妹という身分を背景にして、理知と優しさの持ち主でありながら、法律という確固たる基盤があるのでやたら感情的にならず、あるいは感傷に流されずに物事を理性で考え処理している振る舞いがとても好印象でした。また、やたら人が殺されたり、本格古典みたいにクライマックスに関係者一同を集めて真犯人を指摘する趣向が面白かったです。〈修道士カドフェル〉シリーズよりミステリがやや絡まっているかもしれません。それから訳注が丁寧に施されて勉強になりました。




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『音もなく少女は』ボストン・テラン 文春文庫

2017-07-06

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☆☆☆☆

貧困家庭に生まれた耳の聴こえない娘イヴ。暴君のような父親のもとでの生活から彼女を救ったのは孤高の女フラン。だが運命は非情で……。いや、本書の美点はあらすじでは伝わらない。ここにあるのは悲しみと不運に甘んじることをよしとせぬ女たちの凛々しい姿だ。静かに、熱く、大いなる感動をもたらす傑作。解説・北上次郎 内容紹介より



女に生まれついたことがハンディキャップである社会でさらに貧困と障碍を負うヒロインのイヴ、暴力的な夫に耐えながら彼女を護る母親クラリッサ、彼女たちに寄り添うキャンディストアの店主フラン。この三人の女たちの愛情と友情、そして「創造者、保護者、破壊者」である女の姿を描き出した作品です。物語は、ヒロインが初めて教わった文字と母親が初めて知った言葉の意味「“A” 『緋文字』」,そこから三人の闘いが始まり、ある殺人が起き、墓石に刻まれた「女、姉妹、友達、母親」で終わりを迎えます。三人のなかでも特に悲惨な過去の体験から先鋭的な考えを持つフランの毅然とした生き様は非常に印象に残りました。ボストン・テランの作品は初読なのですが、覆面作家である作者は年齢、性別も明かしていないそうです。しかし、本書を読んだかぎりでは女性作家(もしくは共著者に女性がいる)ではないかと感じるくらい女性(原題はWOMAN)がすごく巧く書き上げられているように思いました。プロットについて難を言わせてもらうなら、イヴとフラン対ロメイン、ミミとイヴ対ロペス、この非保護者と保護者そして対立者の構図がだぶっているところが同じパターンの繰り返しのような気もややしました。とにかく一読の価値のある作品です。



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  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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