『フリント船長がまだいい人だったころ』ニック・ダイベック ハヤカワミステリ

2018-01-15

Tag :

☆☆☆

アメリカ北西部の海辺の町ロイヤルティ・アイランドでは、男たちは秋から半年ものあいだ厳寒のアラスカで漁に励み、妻たちは孤独に耐えながら夫の帰宅を待つ。十四歳の少年カルは、いつか父とともにアラスカに行くことを夢見ていた。しかしある日、漁船団のオーナーが急死し、町の平穏は崩れ去る。跡継ぎのリチャードが事業を外国に売りはらうと宣言し、住人との対立を深めたのだ。その騒動のなかでカルは、大人たちが町を守るために手を染めたある犯罪の存在に気づく。青春の光と影を描き切った鮮烈なデビュー作 内容紹介より



アメリカを舞台にした少年小説には惹かれるので期待して読んだのですが今ひとつでした。この作者は港町に暮らしたことがあるのだろうか、と思うくらいに海や魚の臭いが行間から漂っても伝わってもきませんでした。さらにテーマは深いにしても、その料理の仕方はすごく単純すぎて上っ面を撫でただけのような印象が残りました。頭の中でこねくり回して、それを思わせぶりな表現で表したみたいな感じが終始しました。町に金をもたらす漁師たちを束ねる有力者である父親から、彼らの仲間になる道を閉ざされてわだかまりが生まれ、町と住人たち自体にも複雑な感情を抱く跡取りの青年、父親の死によってこの対立があらわになり、漁師の息子でありながら彼と交わるにつれ、その考えを理解できるようになった少年の存在。父親を含む漁業に携わる者、青年、主人公の少年という三者の構図に、夫が漁期に長期間不在となることの孤独に蝕まれる妻たちを周囲に配しているのは巧みです。父親と同じ道を進みたかった主人公の少年は、ある事件によって、望みながらも受け入れてもらえなかった青年と同じ運命をたどることになってしまいます。プロットの構築には優れた、かなり期待のもてる作家だと思います。ただクライマックスにおける少年が下した伏線のない、いきなりな判断と行動にはついていけなせんでした。




商品詳細を見る




テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『家政婦は名探偵』エミリー・ブライトウェル 創元推理文庫

2018-01-11

Tag :

☆☆☆

ウィザースプーン警部補は医師の死体を前に困りはてていた。名刑事として認められつつある彼だが、無類の好人物であるものの、実は捜査の才能は皆無なのだ。警部補の立てた手柄はすべて、屋敷を取り仕切る家政婦ジェフリーズ夫人が先に真相を解明したうえで行う、さりげない誘導のたまものだった。今回の開業医殺害事件でも、苦戦する主を見かねた真の名探偵ジェフリーズ夫人と、屋敷で働く使用人一同からなる探偵団が、解決目指して警部補には内緒で動きだす。ヴィクトリア朝ロンドンを舞台にした、明るく楽しいミステリ・シリーズ第1弾。 内容紹介より



犯行現場での捜査が苦手で、署内の記録係だった頃を懐かしむ人の良い警部補が、彼を慕う使用人たち(家政婦、メイド、料理人、従僕、馭者)による密かな助けを借りて、開業医毒殺事件の謎を解くと言うお話です。警部補の面目を保つために、使用人たちが陰で調査していることは彼には内緒にしていますが、同僚の警部補は怪しんでいるらしいという設定がしてあります。米国在住のアメリカ人作家なのでほとんどヴィクトリア朝英国の市井の雰囲気が伝わってきませんし、使用人たちのキャラクターもステレオタイプなイメージでそれぞれの個性が強調されているわけではありません。特に警部補のキャラは確立した方が良いのではないかと感じました。ただ、いわゆる古典には見当たらない使用人に光を当てる趣向は面白いし、ミステリの具合など総合的に見るなら各自バランスがとれているようには思います。そういう意味では非常に気軽に息抜きとして読むことができる作品です。



商品詳細を見る





テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『野良犬トビーの愛すべき転生』W・ブルース・キャメロン 新潮文庫

2018-01-07

Tag :

☆☆☆☆

兄弟姉妹に囲まれ、野良犬としてこの世に生を受けた僕。驚くことに生まれ変わり、少年イーサンの家に引き取られ、ベイリーと名づけられる。イーサンと喜びも悲しみも分かち合って成長した僕は、歳を取り幸福な生涯を閉じる。ところが、目覚めると今度はメスのエリーになっていた!警察犬として厳しい訓練を受け、遭難した少年の救助に命がけで向かうが……。全米ベストセラー。 内容紹介より



ケン・グリムウッドの『リプレイ』(新潮文庫)の主人公は、前世の記憶を保ったまま同じ青年時代に何度も立ち戻る設定でしたが、本書の主人公の犬は、やはり前世の記憶を留めたままではありますが、まったく境遇の異なった時代や場所に生まれ変わるという設定です。最初は野良犬として、その後はブリーダーのもとに生まれ偶然にある少年の家に引き取られます。少年とともに過ごした幸せな一生が主人公の心に強く残り、犬としての使命を全うしたと考えて生を終えます。ところが今度はメスの警察犬として生まれ変わることになります。誘拐された被害者や行方不明者を何度も捜し出し、救助したりする活躍をみせ、警察官のハンドラーの人生にも深くかかわり充実した一生を終えます。しかし、またもや生まれ変わったため、主人公は一体なぜ何度も転生を繰り返すのか、その意味するところを深く考えていくのです。犬を愛するがために多くの野良犬を保護し、そのために役所から眼をつけられる女性、犬に対してまったく愛情を持たない、金儲けが目的のブリーダー、こういう人間たちを登場させて、生涯や境遇を人間任せにしかできない犬(ペットの動物)たちの運命、そして飼い主たちの人生が主人公の視点で語られる物語です。犬派の方には特にお勧めです。

新年明けましておめでとうございます。皆様にとって良い一年になりますように。




商品詳細を見る






テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『眺めのいい部屋売ります』ジル・シメント 小学館文庫

2017-12-28

Tag :

☆☆☆

NYイースト・ヴィレッジに建つエレベーター無しのアパートメント。四十五年間、五階の部屋に住み続けるアレックスとルースの夫婦は、十二歳の愛犬ドロシーと穏やかな日々を送っていた。ただひとつ、大きな問題が。足腰の弱ってきた彼らにとって、階段の上り下りが年々辛くなってきたのだ。そこで二人は住み慣れた部屋を売り、エレベーター付きの物件を購入する計画を立てていた。ところが内覧会の前夜、ドロシーが急病に。さらに近くのトンネルでテロ騒ぎが勃発する……。結婚生活五十五年史上、最もスリリングな週末を過ごしたチャーミングな夫婦の物語。 内容紹介より



老夫婦と老犬が暮らすアパートの部屋が高額で売れそうだと不動産屋から聞いた二人は、購入希望者にたいしてアパートの内覧会を開くことに。しかしその前日に愛犬の身体に異変が起きるとともに、トンネル内でタンクローリーが立ち往生するというテロ騒ぎが発生してしまいます。主人公の老夫婦は街中が大騒ぎの状態にある中、動物病院に入院した愛犬のこと、アパートの売却と新たなアパート捜し、姿をくらましたタンクローリーの運転手にまつわる噂、さまざまなことに振り回されてしまいます。若い頃、反体制派と疑われてFBIから監視を受けていた夫婦が、テロ騒ぎによる不動産価格への影響に期待したり心配したりする俗物ぶりな様子とか、事件に関するマスコミの扇情的な報道姿勢、飼い主を心待ちにする愛犬の姿、こういう場面が印象的に挿まれて物語が進行していくのですけれど、老いることの内実、外部の忙しない状況という内と外の対比が際立って感じられました。ただ、ミステリ好きな者にとっては、この一貫してトーンの上げ下げの乏しさが、悪くはないのですけれどやはりどうしても物足りなさを感じてしまうのです。ミステリではない作品にそんな印象を持たせない作品があるなかで、本書は良作かもしれないけれど秀作とまではいえないのかもしれません。

さて、これが年内最後の更新になります。この一年当ブログにお越しいただきありがとうございました。どうぞ良いお年をお迎え下さい。




商品詳細を見る




テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『プラムプディングが慌てている』ジョアン・フルーク ヴィレッジブックス

2017-12-24

☆☆☆

クリスマスを目前に控えた〈クッキー・ジャー〉は大忙し!毎日のクッキー作りに加えて、クリスマスクッキーの注文が殺到。そのうえシーズン限定のテーマパークで売るお菓子の準備に新作クリスマスデザートの依頼まで。そんななか、母がハンナに助けを求めてきた。ノーマンの母キャリーの様子がおかしいらしい。ノーマンにも相談され、マイクからも何やら気になる情報が—。ほうっておけず調べる約束をしたハンナだが、その矢先、今度はテーマパークのオーナーの死体を発見するはめに……。キャリーをめぐる謎、犯人探しに思いがけない人物との再会もあって、さらなる波乱の予感!?大好評シリーズ第12弾! 内容紹介より



ものすごく久しぶりに読んだ〈お菓子探偵ハンナ・スウェンセン〉シリーズ。いつものようにさまざまな種類のクッキーが登場して、登場人物たちの胃袋に入っていきます。相変わらずミステリとしては高いレベルにあるとは言えませんが、総合的にバランス良く上手い具合にまとまっている印象を受けました。クリスマスプレゼントのラッピング、クリスマスツリーの飾り付け、クリスマスの楽曲など、クリスマスというイベントを間近に控えた町の雰囲気や住人の様子が生き生きと伝わってくる感じがしました。何かとイベント頼みのコージーミステリには否定的でしたが、日本ではあまり見られない文化や風習の違いなどの描写を読むと新鮮な感じがして、それはそれでありだなと思うようになりました。そんな喧噪のさなか、クリスマス期間限定のテーマパークのオーナーが自宅で射殺されているのをヒロインが発見してしまいます。調べるうちに被害者が商売上で不正を行っていた疑いが浮かび上がってきたり、過去のスキャンダルが明らかになったりします。また、ヒロインの母親の親友であり、男友達の母親が怪しい行動をとったりしている件も調べることになります。歯科医と刑事、二人の男友達の間にぬくぬくと納まっているヒロインの状態はこれまた代わり映えしません。

ユーザータグ:ジョアン・フルーク




商品詳細を見る




テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『裏切りの色』マーシャ・シンプスン ハヤカワ文庫HM

2017-12-23

Tag :

☆☆☆

スクーナー船でアラスカの海を行き来し、荷物を配達する仕事をしているライザは、ある日岬の岩棚に打ち上げられた少年を救った。が、直後にライフルで狙撃され、愛犬が負傷する。その後も船に細工されるなど、彼女の周囲で奇怪な出来事が相次ぎ、ついには少年が何者かに誘拐された。ライザは少年を取り戻すべく捜索を開始するが……タフで自立した女船長の活躍を情感豊かに描いた、アメリカ探偵作家クラブ賞最終候補作。 内容紹介より



冒険小説の色合いが強い作品で、なかでも女性船長が活躍するというあまり見かけない設定がなされています。ヒロインは移動図書館を兼ねている船で、日用品をはじめとしてさまざまな荷物を運んでいる仕事を愛犬とともに行っています。彼女が幼少の頃に母親が失踪し、警官だった夫が殉職してしまう暗い過去を背負っています。彼女は航海中に原住民の少年を助けるとともに射殺された遺体を発見した直後に、何者かに狙撃される事件が降り掛かります。
犯人側からの視点もあるため、彼らの動機と狙いは最初から読者には明らかにされ、また彼らがヒロインの知り合いの中にいることも早々に見当が付きます。読みどころは冒険部分とネイティブアメリカンについての記述になるのですけれど、冒険シーンは船同士の追跡劇銃撃あるいは救出劇などをそろえていてまあまあの出来なのですが、作者がアラスカでの教師時代に地元民から取材した経歴があるにしては、ネイティブアメリカンや彼らの文化に付いての部分は掘り下げていない印象が残りました。




商品詳細を見る




テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

カテゴリー

最近の記事

月別アーカイブ

02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07 

ユーザータグ

短編集 ホラー SF クリスマス・ストーリー アンソロジー ルース・レンデル アーロン・エルキンズ スティーヴン・キング デイヴィッド・ハンドラー ローラ・チャイルズ ジョアン・フルーク キャロリン・G・ハート ジョージ・P・ペレケーノス マイクル・クライトン ドン・ウィンズロウ ジョー・R・ランズデール ポーラ・ゴズリング C・J・ボックス エド・マクベイン ジェームズ・パターソン リチャード・マシスン ヘニング・マンケル ジル・チャーチル ジェイムズ・パタースン ローレンス・ブロック ピーター・ラヴゼイ カール・ハイアセン ジャネット・イヴァノヴィッチ D・M・ディヴァイン リリアン・J・ブラウン レジナルド・ヒル スチュアート・ウッズ アリス・キンバリー レックス・スタウト パーネル・ホール ジョルジュ・シムノン S・J・ローザン ジョー・ゴアズ マーガレット・ミラー クレオ・コイル レスリー・メイヤー ウィリアム・カッツ ヒラリー・ウォー ジェフリー・ディーヴァー カーター・ディクスン ジェフ・アボット アイザック・アシモフ コリン・ホルト・ソーヤー エド・ゴーマン ジャック・カーリイ ジョン・ディクスン・カー マイケル・ボンド ルイーズ・ペニー マーシャ・マラー ロブ・ライアン ジェームズ・ヤッフェ キャロリン・キーン G・M・フォード リタ・メイ・ブラウン ローラ・リップマン イーヴリン・スミス ウィリアム・L・デアンドリア フレッド・ヴァルガス ポール・ドハティー レニー・エアース ウイリアム・P・マッギヴァーン ケイト・ロス リン・S・ハイタワー ジョアン・ハリス ドナ・アンドリューズ オーサ・ラーソン クリスチアナ・ブランド サイモン・カーニック アンドレア・カミッレーリ デイヴィッド・マレル アンソニー・ホロヴィッツ ファーン・マイケルズ エヴァン・マーシャル ジャン=クリストフ・グランジェ スタンリイ・エリン コニス・リトル ジョン・クリード レイ・ハリスン ダナ・レオン ジャック・フィニイ ウォルター・モズリイ ウィリアム・ランデイ ジェーン・ラングトン エーリヒ・ケストナー ビリー・レッツ ウォルター・サタスウェイト リック・ボイヤー ユージン・イジー サキ イーサン・ブラック アン・クリーヴス トバイアス・ウルフ スタンリー・エリン ポール・ドハティ 

ブログ内検索

全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

リンク

RSSフィード

最近のトラックバック

最近のコメント