『ブラック・チェリー・ブルース』ジェイムズ・リー・バーク 角川文庫

2018-06-06

Tag :

☆☆☆

ブルースはやるかたない苦みからしぼりだされる。デイヴ・ロビショー—元ニュー・オーリンズ警察警部補。わけあって、今は貸しボート屋の主人。妻を殺された悪夢から覚めやらぬ日々のなか、ふと立ち寄ったバーで旧友のブルースマンと出くわした。男は面倒事に巻き込まれていた。ロビショーは関わりたくなかった。ロビショーのもとに狂気に満ちた脅迫状が舞い込んだ。守るべきものはなにか。たち戻れぬ過去に復讐するかのようにロビショーは北へ向かう—。`90MWA長編賞を受賞した香り高きハードボイルド・ロード・ノベル。 内容紹介より



本書は〈デイヴ・ロビショー〉シリーズの第三作目にあたります。
いわゆる“文学”出身の作家が著すミステリ作品のなかには、良くいえば重厚、格式、悪くいえば書き込み過ぎ、もったいぶった表現といったものを感じてしまうことがあります。本書においても、日常風景や景色に触発されたイメージが主人公のなかで言葉としてあふれ出しているような文章形式をとっています。さらに、油井事故で亡くなった父親や暴漢に殺された妻の幻影との会話(ビリー・ボブ・ホランド シリーズでも同じ趣向が用いられていた)も挿まれ、生前の彼らの追想や情景から人生の一端、人間性の一面にも話が及び、主人公の情感を描き出します。これが“文学”作品ならいくらでも主人公をそこに浸らせておけばよいのでしょうが、ミステリ作品として見ると一向に話が前に進まず、後半部分に入るとさすがにくどさを感じてしまいました。自らの裁判が数日後に迫るなか、殺人犯の容疑を晴らすために主人公が追っている男をそっちのけで、わざわざマフィアとトラブルを起こすというあまり意味が分からない本筋から離れる展開より、主人公の養子についてのエピソードに紙幅を割いたほうが全体的なバランスがとれるような気がしました。

『過去が我らを呪う』
ビリー・ボブ・ホランド・シリーズ
『シマロン・ローズ』講談社文庫
『ハートウッド』講談社文庫




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ベベ・ベネット、死体を発見』ローズマリー・マーティン 創元推理文庫

2018-06-01

Tag :

☆☆☆

憧れのニューヨーク。レコード会社で秘書の仕事に就いたベベ。仕事は面白いし、上司は素敵だし、いうことなしの毎日だ。ところがルームメイトのダーリーンにダブルデートに誘われたのがトラブルの始まり。デートの相手がホテルのバスタブで死んでいたのだ。しかもダーリーンが容疑者?冗談じゃない!誰とでも仲良くなれる特技を生かし、ベベは友人の容疑を晴らすべく奔走する。バンドのメンバーに被害者の元恋人と、怪しい人物はてんこもり。お人よしで、ちょっと危なっかしいベベが、周囲を巻きこんでの大騒動。キュートなミステリ3部作第1弾。 内容紹介より



時代は1960年代、舞台はニューヨーク、主人公は、大都会に憧れヴァージニア州から出て来た、サザン・ホスピタリティの気風を備えた、プレイボーイの上司に惹かれるまだまだうぶな22歳の南部美人です。ビートルズが音楽界を席巻している頃、ヒロインの勤めるレコード会社がその二匹目のドジョウを狙ってアメリカに招いたバンドのヴォーカルがホテルで死体となって発見されます。その現場に居合わせたのがヒロインとルームメイト。事件の容疑者となったルームメイトと事件のせいで会社での立場が窮地に陥った上司を救うためにヒロインが事件の謎に挑むというもの。被害者と、他のバンドメンバー、マネージャー、元恋人、それぞれとのトラブルが明らかになり、ヒロインの身にも危険が迫るプロットは代わり映えしませんし、事件の真相も無理矢理こじつけた感があります。しかし、この作品の魅力は、あえて時代設定を1960年代に持って来たこと(ケネディ大統領暗殺事件の影響、生活スタイル、デビュー前のニール・ダイアモンドなどの音楽関連の話)、世間知らずで男慣れしていない(地下鉄が怖くて乗れない、カクテルを初めて飲む、雑誌プレイボーイも初めて目にする、上司の下着姿にドキドキする、などなど)ヒロインの造型にあり、特によく描かれるファッションスタイルは女性読者受けしそうです。



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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『大富豪のペルシャ猫』ローレンス・サンダーズ ハヤカワ文庫NV

2018-05-29

Tag :

☆☆☆

何者かに誘拐された、いとしのペルシャ猫を探しだしてほしい—そんな奇妙な依頼が、よりによって、大の猫ぎらいのわたしのもとに舞いこんでこようとは……。だが、やむなく調査を開始したわたしを待ち受けていたのは、愛すべき隣人たちをも巻きこむ、残忍で非道な殺人事件だった。L・サンダーズが新境地を拓き、全米ベストセラー・リストを驀進し続ける〈秘密調査員マクナリー・シリーズ〉が、文庫オリジナルで登場! 内容紹介より



以下、ちょっとネタバレ気味です。ご注意下さい!

大金持ちの愛猫が身の代金目的で誘拐され、時を同じくして、ある女性のもとに身体に危害を加えるとの脅迫状が届きます。二人それぞれの顧問弁護士を務める父親の弁護士事務所の調査員である主人公が内密に調査を担当することになりますが、二人に届いた脅迫文の書式と書体が酷似していることに気づきます。まもなく脅迫状通りに殺人事件が起こり、主人公は、被害者が参加していた降霊会を催していた怪しげな心霊術師一家に目を付けることに……。本書の主人公であるアーチボルト(アーチイ)とレックス・スタウトが作り出した探偵ネロ・ウルフの助手アーチーって、軽佻浮薄な感じがちょっと似ているような気がします。今回、失恋した女性の傷心につけ込んでいるかのような行動をとる、この子供じみた洒落者の彼のチャラいキャラが前回同様に受け付けませんでした。ミステリ的にも電話によるアリバイ作りのトリックが古すぎるアイデアで、それをさも重大な発見みたいに扱われると目を疑ってしまいました。ユーモアミステリなのでしょうけれど、全体的な雰囲気が好みではありません。

『顧客名簿』講談社文庫




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ハバナ・ベイ』マーティン・クルーズ・スミス 講談社文庫

2018-05-24

Tag :

☆☆☆☆

ロシア検察局の捜査官レンコは、ハバナ湾で不審死を遂げた仲間の身元確認のためキューバへ飛んだ。最愛の妻を亡くし失意の日々を暮らす彼は自殺さえ決意していたが、ロシアに見捨てられた島で待っていたのは冷たい視線の革命国家警察だった。『ローズ』に続き、ハメット賞連続受賞に輝く傑作ミステリー。 内容紹介より



スティング(あるいはシャインヘッド)の歌になぞらえれば、この作品は“Russian in Havana”そのものでしょう。かつて蜜月を誇ったキューバとソ連の関係は、片方がロシアと名を変えてから様変わりしています。特にキューバ政府関係者のロシアへの憎悪とも言える感情は末端の警察組織においても激しく、旧友の身元確認に訪れた主人公も冷ややかな扱いを受け、彼が死因に不審なものを感じたものの地元の警察は捜査しようともしません。そんな状況の中、思っても見なかった人物から主人公が襲撃され、彼は異国の地で独りで捜査を始めることになります。フロリダ海峡に臨む陽光あふれた観光地ハバナを舞台に、住人の気質と普段の暮らし、彼らと観光客との関係、土着の呪術、食料配給制度、革命防衛委員という名の国民監視組織、などなど、いろいろな側面を抱くキューバが異国情緒豊かに観光案内風の記述を挿み印象深く描かれています。さらにカシミアの黒のコートを着たロシア人の主人公を始めとして登場人物たちの造型と描写にも非常に優れているように感じました。特異な政治体制の下でミステリ的にも巻き込まれ型のスパイ小説みたいに、隠されていた陰謀もスケールが大きく、それにたどり着くまでの過程も読みごたえがありました。キューバ人とロシア人、光と影の対比が鮮明な作品です。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『悪魔の仕事』ウィリアム・G・タプリー 扶桑社ミステリー

2018-05-19

Tag :

☆☆☆

ウッドハウス上院議員の甥、作家のスチュアート・カーヴァーが浮浪者同然の格好で、耳にアイスピックを打ち込まれて殺されていた。名門ウッドハウス一族からはみだし者としてよく思われていなかったスチューだが、弁護士ブレイディ・コインにとっては依頼人であり、またよき友人でもあった。しかし警察は国務省高官暗殺未遂事件の捜査に忙しく、取り合おうとしない。そこでコインは単身スチューの死因を探ろうと乗り出した。ところが今度はスチューの取材ノートをコインに届けにきていた男が殺された。やはり耳にアイスピックを打ち込まれて……。二人はなにか重要な秘密を知ったために殺されたのではないだろうか?ロバート・パーカーのスペンサーを超えるとの呼び声たかい、美しい街ボストンの知性派探偵〈弁護士ブレイディ・コイン〉久々の登場! 内容紹介より



このシリーズをジャンル分けするならば、一応探偵小説になるのでしょうけれど、主人公は酒も煙草もたしなみますが、私立探偵のイメージにつきもののチェーンスモーカーでもなく酒をラッパ飲みもしません。彼はエール大学卒業で、彼の顧客はいかがわしい人物や妖しい娼婦でもなく社会的な地位にある人物です。本書では、私立探偵の真似事をして場末の飲み屋のトイレで強盗被害にあったり、ホームレスの支援施設に足を運んだりしますが、主人公が普段身を置いているお上品な環境とはまったく違った世界で右往左往する姿がひとつの魅力なのかもしれません。プロローグで政府高官暗殺未遂のシーンがあるため、本書のミステリはそれに関連したものだろうとは予め読者には見当が付く訳ですが、この主人公は残り70ページに至っても無実の人物を告発してしまううえに、残り50ページでやっと棚ぼた式に真相が手に入るという、まるでコージーミステリみたいな間抜けさを見せてしまっています。それはクライマックスでの真犯人との体を張った対決場面にも言えます。結構スノッブ臭が鼻に付きますがスペンサーより人物的に面白いかもしれません。

『チャリティ岬に死す』



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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『クッキング・ママの真犯人』ダイアン・デヴィッドソン 集英社文庫

2018-05-15

Tag :

☆☆

ケータリング業が順調にいってほっとひと息のゴルディ。けれど料理の先生アンディが妻の病気で家計に不安をきたし、ケータリング業を始めた。その上、前夫が彼女の幸せを妬み、知人にケータリングをやらせたからたまらない。狭い地域に三人のケータラー。頭をかかえるゴルディに、アンドレが火傷による心臓麻痺で死んだニュースが飛びこんだ。おかしい。彼は日頃から心臓が強かったのだ……。 内容紹介より



クッキング・ママ・シリーズの第八弾。
建設業者の男が、主人公の友人である地元の歴史協会会長の自宅にある改築現場で他殺体で見つかります。彼は主人公を含めあちこちの住宅の改装を請け負ったものの、いい加減な施工で迷惑や損害をかけていたのだが、死体が発見された場所でもトラブルを起こしていた。彼女の友人はそのトラブルが動機だとして逮捕される。被害者が夜間警備のアルバイトをしていた歴史博物館では、展示されていた昔の料理本が盗まれていたことも明らかになります。友人が殺人犯だとは思えない主人公は、ファッション写真の撮影現場となっている、西部時代の銀行強盗が所有していたいわく付きの山荘でケータリングを始めたかつての料理の師匠を手伝っています。工事が中断した自宅の台所がひどい状態のうえに、新手のケータラーに顧客を次々にとられていったり、何者かに彼女の料理に細工をされたり、殺人事件捜査で、彼女の夫は日頃から不仲の検事補から停職処分を受けてしまうはめに。様々なトラブルが降り掛かるなか、料理の師匠が不審死を遂げます。なんといっても多くの登場人物や登場しないけれど人名だけ出てくる人物とか、それが一番ごちゃごちゃして煩わしさを感じました。多くの容疑者をとり揃えようという作者の意図なのかどうかわかりませんが、主人公は出来事に流されるままで容疑者をあげたり、それらの人物を検証することすらしないのです。事件の動機となる張られた伏線の先にある作者の目論みには読者はかなり始めから気が付いている訳で、主人公がそれに気づくのが遅すぎてもどかしかったりしました。ミステリとしては究極の成り行き任せなのに、それでも読ませてしまうコージー・ミステリのシリーズ物は恐ろしいものです。

ダイアン・デヴィッドソン




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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