『ピーチツリー探偵社』ルース・バーミングハム ハヤカワ文庫HM

2018-03-16

Tag :

☆☆☆

女性探偵サニーが勤めるのは、大統領とも懇意の有名探偵が営むピーチツリー探偵社。放浪癖を持つ社長不在の今、彼女は窮地にあった。盗まれた絵を取り戻そうと赴いた泥棒との取引場所で他殺体に遭遇。容疑者にされた挙げ句、絵は戻らず。さらに期間内に十万ドル納めないと探偵社が倒産すると銀行の催促が。サニーの捻り出した起死回生の秘策とは?どんでん返しの連続回転記録に挑むジェットコースター・ハードボイルド 内容紹介より



女性探偵サニー・チャイルズを主人公にしたシリーズは、MWA賞ペーパーバック賞を受賞した『父に捧げる歌』が先に邦訳されましたが、本作がシリーズの第一作目にあたるそうです。
三十四歳の小柄な主人公は、著名な探偵が社長を務める探偵社のほぼ共同経営者的な地位にあります。しかし、その社長が大金を持って失踪したため、会社の資金繰りが危機的状況に陥ってしまいますが、折しも保険会社によって画廊から盗まれた印象派の絵画を取り戻す依頼を受け、その仕事が成功すれば会社の経営も持ち直すという状況にあります。犯人との取引場所へ向かったヒロインは、犯人グループの一員とみられる女性の死体を発見する羽目に……。
何度も離婚歴があり、その度にお金持ちと再婚する母親、音楽の才能があると信じながら、母親の干渉から弁護士になった弟、このふたりにいろいろ思うことがあるヒロインは妻子ある男性と不倫中の身です。不倫は別として、こういう既視感を覚えるような家庭と家族の設定に、事が上手く運びそうですんでのところで駄目になり、その度に死体を発見してしまうという、やや型にはまったスラップスティックをおびたな展開にちょっと食傷気味になりました。ラストにおけるヒロインとある人物との出会いの場面を発展させ、その人物を真犯人と確信させたらさらに意表を突く結末になったのではないかと思いました。

『父に捧げる歌』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『紳士と月夜の晒し台』ジョージェット・ヘイヤー 創元推理文庫

2018-03-11

Tag :

☆☆☆

月夜の晩、ロンドンから三十五マイル離れた小さな村の広場で、晒し台に両足を突っ込んだ紳士の刺殺体が発見された。被害者の腹違いの弟妹をはじめとして、殺害の動機を持つ容疑者にはこと欠かないが、浮世離れした彼らをまえにして、スコットランド・ヤードのハナサイド警視は呆然とするばかり。そんなとき、思わぬ事態が起きて……。ヒストリカル・ロマンスの大家として知られる一方で、巨匠ドロシー・L・セイヤーズが力量を認めた著者による軽妙な人物描写と緻密なプロットが光る傑作本格ミステリ! 内容紹介より



海外ミステリの黄金期にあたる1935年に発表された作品です。アガサ・クリスティやドロシー・L・セイヤーズなど、同時代の作家に比べて、日本においてミステリ作家として知名度が劣るのはそのスタイルのせいでしょうか。わたしは初読なのですけれど、“軽妙な人物描写”とそれにともなう容疑者側からの視点が印象に残りました。容疑者が被害者の異母弟妹とそれぞれの婚約者であること、さらに主な舞台が弟妹の家であること、そして彼らの居間に、婚約者、使用人、弁護士、警察官が入れ替わり立ち替わりして現われては、事件についてああでもないこうでもないという会話を繰り広げるので、テレビドラマのシチュエーションコメディぽい一面を感じました。。こういう、あまり波乱のない場面がかなりの割合を占め、また弟妹のふたりがかなり浮世離れした言動を見せるので、読んでいてちょっとくどい感じが残ります。ミステリとしては、ちゃんとポイントを押さえてはいるけれど、派手さがある訳ではないのでインパクトには欠けます。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『最後の娘』ペネロピー・エヴァンズ 創元推理文庫

2018-03-05

Tag :

☆☆☆

新しい店子が入るらしい。どうせ似たような娘だろう。エセルはああいう娘の製造器でも持ってるんじゃなかろうかと思うくらいさ。だがまあ、人間、望みを捨てちゃおしまいだ。同情に満ちた、あの娘の声。さっそく、いろんな果物を贈ったよ。現われた娘はこう言った。「すみません、何とおっしゃいました?」最初の一言は“わびる言葉”だろうと踏んでいたとおりじゃないか。何を謝ろうというのか知らんが、そんなのはとるに足らん問題だ……。72歳のラリーの目を通して世界をながめる、この異様な感触。デリケートな手つきで人間の滑稽、人間の哀しみを剔出する、瞠目のデビュー長編! 内容紹介より



ロンドンに建つある屋敷には、一階部分に大家夫婦、三階の貸部屋には、かつては妻と娘の三人暮らしでしたが、妻は別の男のもとへ、娘は結婚したために、ラリーという老人がひとりで住んでいます。二階に女子大生が新たに越して来たことから、彼女に対するラリーの妄執のスイッチが入ってしまいます。妻や娘への怒りや不信を心に秘めたラリーは、女子大生との友情を築こうとパラノイアに駆られた行動をとります。彼女に親切にするかわりに、それなりの感謝と礼儀を受けたい、それが彼の望みです。
相手の困惑や迷惑など考えもせず、ただ一方的に自らの感情を押しつける彼の思考と奇矯な振る舞いが、一人称で語られ、読んでいて息苦しくなりそうでした。『キリスト教文化の常識』(石黒マリーローズ、講談社現代新書)のなかに、「ひとびとにしてほしいとあなたが望むことを、その通りに人々にしてあげなさい」(p206)というルカ福音書 の言葉と、「人は自分がしてほしくないことを他人に押しつけてはいけない」という日本人の考え方をひいて、欧米と日本での他人に対する接し方の違いを述べている箇所がありますが、見返りを求めないように見えて、実は大きな見返りを求めているラリー、その見返りが得られなかった時にさらにもう一段階へ進む彼の狂気。誰の心にも大なり小なりラリーがいるのでしょうね。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『マチルダの小さな宇宙』ヴィクター・ロダート 早川書房

2018-03-01

Tag :

☆☆☆

ぐれたい。悪いことを片っ端からやりたい。毎日がだるくて、つまんなくて、うんざりなんだもん。
マチルダの姉は一年前に死んだ。線路に突き落とされて、列車に轢かれたのだ。それからずっと、両親はふさぎこんでいるだけで、家のなかは重苦しい空気で満ちている。そういう日々に苛立つマチルダは、決心した。姉を死に追いやった犯人を探し出して、両親の目を覚まそう。
気が強くて辛辣で繊細な少女マチルダの旅はどこへ向かうのか。そしてその旅が終わったとき、どんな風景が目の前に広がっているのか—。
話題の若手劇作家で詩人の著者が鮮烈な筆致で描き出す、思春期の切ない冒険譚。 内容紹介より



性的な描写を除けば、十三歳の少女を主人公にした、ほとんどヤングアダルトといってもよい物語です。美しく歌の才能があった姉が、一年前に十六歳で亡くなって以来、主人公の家庭は暗く沈んだままです。母親は酒浸りで生活態度もだらしなくなり、父親はそんな妻を腫れ物を扱うように過ごしています。主人公の両親に対するやり場のない怒りと不満、その両親のお気に入りだった姉への思慕とわだかまり、そして自分のなかにある虚しさ、愛情を求める心。様々な感情が主人公の視点で表されますが、胸をつまされるのは、彼女の内に秘めた大きな孤独と深い悔恨です。母親が悲しみにこもって、思春期の主人公の悲しみに気づいてくれない、もうひとりの娘である自分を見てくれないとなったら、一体どうしたら良いのでしょうか。彼女は、精一杯強がりながら、姉が殺されたと思い込むこと、その犯人を見つけ出そうとすることで心のバランスを取ろうとします。『きらきら』(シンシア・カドハタ)に登場する姉妹の関係とちょっと似ている気がしました。




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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『野兎を悼む春』アン・クリーヴス 創元推理文庫

2018-02-25

☆☆☆☆

シェトランド署の刑事サンディ・ウィルソンは、実家のあるウォルセイ島にいた。祖母のミマから電話で請われ、久しぶりに彼女の小農場を訪ねたサンディは、こともあろうにその祖母の死体の第一発見者となってしまう。ミマは一見、ウサギ狩りの銃弾に誤って撃たれたように見えた。親族間に潜む長年のわだかまりや、本土から来た調査班が小農場の敷地でおこなっている遺跡の発掘とは無関係の、単なる事故のはずだった。だが……。島に渡ったペレス警部がえぐり出す、事件の真相とは。現代英国ミステリの最高峰〈シェトランド四重奏〉、圧巻の第三章。 内容紹介より



原題の“RED BONES”のとおり、被害者が一人暮らしていた農場敷地内の、ハンザ同盟に関係すると思われる遺跡から発掘された骨から事件は端を発します。第二次世界大戦中、島民は英海軍とともに、ノルウェーによる対ドイツへの抵抗運動に協力していた歴史もあります。そういう時代背景を据えて、作者はこれまで同様に、被害者の家族、親戚、発掘作業に携わる大学関係者、捜査を指揮する警部、これらの人物たちの視点をその時々に移しながら、彼らの心の機微を緻密に描写し、人間関係に潜む心理をあらわにして見せます。悲惨な物語にもかかわらず、こういう物語を織り上げるデリケートな手際が読んでいてとても味わい深く、読み心地が良い感じがしました。遺跡を発掘するみたいに、事件の全容が断片からじわじわと形を採りはじめていく進み方も雰囲気を盛り上げていると思います。また、これまで頼りなかったサンディ刑事の人間的な成長の一面も描かれているのも一興です。

『大鴉の啼く冬』
『白夜に惑う夏』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『コオロギの眼』ジェイムズ・サリス ミステリアス・プレスハヤカワ文庫

2018-02-20

Tag :

☆☆☆

時は流れ、街は変わり、人々もうつろってゆく。探偵だったルー・グリフィンは教師となり、作家としても成功していた。だが一本の電話が、ふたたび彼を混沌の街へと誘う。長年行方不明になっていた息子らしき青年が、重傷を負って入院しているというのだ。急ぎ病院を訪れたルーは、そこで意外な言葉を聞かされる……ハードボイルドに新たな風を吹き込む傑作 内容紹介より



『黒いスズメバチ』と同じく、舞台はニューオーリンズ、主人公はルー・グリフィンです。現在の彼は、作家としていくつかの著作を出し、大学で英文学を教えています。元探偵の経歴から、学生の失踪した弟を捜し出す依頼を受けます。実は主人公の一人息子も長年行方不明になっているのです。ある晩、彼が息子へ贈った署名入りの著書を持った男が重傷を負って病院に運ばれたとの連絡が入りますが……。過去に彼が愛した女性たちへの思い、近隣で起きるストリートギャングによる犯罪行為、親友の息子に起きた悲劇、こういったいろいろな出来事を観念的、叙情的に移ろう心情を細かく描写していく手法をとっています。この作家の持つ、いわゆる「文学」指向なのだと思うのですけれど、この思わせぶりな文学臭がやや鼻に付くところもあります。いうなれば、ミステリ性がかなり希薄なハードボイルドなのでしょうし、そう割り切れば文体は嫌いではないし、これまでに読んだ二作品より肌にあった感じがしました。しかし、p265からの、どういう必然からなのか訳の判らない突然の彷徨をし始める主人公の行動は意味が分かりませんでした。

『黒いスズメバチ』ミステリアス・プレス
『ドライヴ』ハヤカワ文庫HM




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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