『爆殺魔(ザ・ボンバー)』リサ・マークルンド 講談社文庫

2017-09-24

Tag :

☆☆☆☆

オリンピック競技場が何者かによって爆破された。バラバラの肉片となった被害者。開催を妨害するテロ行為か。あるいは個人的な怨恨か。女性新聞記者アニカは独自に真相を追う。そこへ第二の爆破殺人が。しかもアニカまで爆薬入り小包で脅される。スウェーデン推理作家協会ポロニ賞受賞のクライム・ノベル。 内容紹介より



以下、ネタバレしています。未読の方はご注意下さい!

夕刊紙の事件報道部デスクに昇進したばかりの女性記者が主人公です。彼女の上司である総編集長から眼をかけられ将来を嘱望されている一方で、年長の男性記者の部下に妬まれたり、女性秘書との間に軋轢が生じたりするとともに、二児の母親として私生活でもストレスを抱え、しばしばキレつつ連続爆破事件の取材に当たる姿を描いています。
先日読んだフィンランドを舞台にした『雪の女』と同じように、北欧諸国がまとうポジティブな印象からは隠れた負の部分、本書では女性差別をテーマにしています。ヒロイン、被害者、加害者の三人ともに優秀で上昇志向を持ちながら、過去や現在において男性優位な環境のなかでストレスに晒され、ハラスメントを受けてきています。ヒロインはこれからさらにプレッシャーがかかるであろうし、被害者は男性社会の波に揉まれてのし上がって成功を収め、加害者はプレッシャーに飲み込まれ、味方だと信じた被害者に裏切られたと思い込んでいる状況にあります。この物語の悲劇は、本来なら助けあう仲間となって、女性への偏見や差別そして蔑視に立ち向かわなければならなかったであろう女性たちが、互いに傷つけあってしまう皮肉な状況に陥ってしまったことです。そして、そうならざるを得なかった男社会という問題を描き出しています。被害者が遺していたモノローグみたいな文章に彼女の特異な人となりが創られたヒントが含まれていれば良かったのでしょうけれど、そこら辺りは弱い感じがしました。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『誰かが泣いている』デイヴィッド・マーティン 扶桑社ミステリー

2017-09-19

Tag :

☆☆☆

ピューリッツアー賞を受賞し視聴者の信頼も厚いニュースキャスターのジョン・ライアン。ある日、彼は幼児虐待のニュースを読みながら涙を抑えることができず、結局番組を降番。その直後ライアンは、自宅前で黒人女性から奇怪なネッセージを手渡される。だが女性は彼の目前でタクシーに飛び込み自殺。衝撃をうけるライアンは、真相を掴もうと田舎町ハメルンへ向かう。そして、そこには18人もの赤ちゃんの殺害を噂される謎の小児科医キンデルがいた…。『嘘、そして沈黙』のマーティンが描く異色サイコ・スリラーの最新作。 内容紹介より



かつて小児科医の下で看護婦として働いていた黒人女性が、テレビ番組中に涙を流す主人公の姿を見て、小児科医が犯した犯罪を暴いて欲しいというメッセージを主人公に渡したのち自殺します。番組を降番した彼は静養を兼ねて小児科医の住む田舎町にある山荘へ赴くが、到着直後から奇怪な人物や出来事に遭遇します。排他的な町の雰囲気、不気味な噂を持つ小児科医と彼に仕える女性秘書、彼の息がかかった保安官とその助手、山中に獰猛な犬と暮らす小男、ブードゥー教を信じる女。登場人物たちも型にはまったキャラクターであり、悪人が当初から名指しされていることで善と悪が判りやすく設定され、ミステリとしては、医者がなぜ赤ん坊殺しの噂を立てられているのか、もし本当なら動機は一体何か、というシンプルさです。普段沈着冷静な主人公が、女体を前にして思わずとってしまった衝動的な行為を描いて、これまでとは違うギャップを感じさせるユーモラスなシーンもあります。現実からのちょっとした乖離具合、パルプマガジン的な読みやすさと安っぽさ、ケッチャムの暴力性とクーンツの荒唐無稽さを拡大して混ぜ合わせてさらにディスカウントしたみたいな作風に思えました。暴力場面がグロいので、苦手な方は注意が必要です。

『嘘、そして沈黙』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『妻の沈黙』A・S・A・ハリスン ハヤカワ文庫HM

2017-09-16

Tag :

☆☆☆☆

不動産開発業で成功を収めた夫トッド。彼を支えるサイコセラピストの妻ジョディ。二十年以上連れ添ってきた二人の生活に、ある日亀裂が入った。トッドの浮気相手が妊娠したのだ。まだ見ぬ我が子に心を奪われはじめるトッドと、すべてを知りながら何も言わないジョディ。二人のあいだの緊張が最高潮に達したとき、事件が起きる—。誰にでも起こりうる結婚生活の顛末を、繊細かつ巧妙に描いたベストセラー・サスペンス! 内容紹介より



四十五歳の妻と四十六歳の夫、妻の希望で子どもはいません。彼女と彼の視点が交互に入れ替わって話が進みます。彼女は家事を完璧にこなしながら自宅でセラピーの仕事をし、浮気性の彼はリノベーションなどを手がける不動産開発会社の社長です。彼の数々の浮気を見てみぬ振りをして、何ごともなかったように振る舞い、落ち着いた規則正しい生活を送っていた彼女に、彼の浮気相手の妊娠という思わぬ事態が生じてしまいます。「彼女のことがほとんど理解できず、外見の下に何が潜んでいるかよくわからない」(p83)と彼が考えるように、物語は彼女の心の奥底に秘められたものを明らかにし、さらに彼女が将来もずっと盤石だと信じていた生活がもろくも崩れて行く様を描き出して行きます。彼女が若い頃受けたセラピーの場面、彼から見た彼女の姿、彼女自身の内省によってもたらされた、彼女の内面にある不気味さ薄気味悪さがじわじわと浮かび上がってくるようです。彼女と「彼の場合はすべて偽りだ。仮面をつけ、形だけの行動をとり、何も言わない。いまはすべて順調だし、今後も順調に進んでいくかのようにふるまう。(略)沈黙は彼女の武器でもある」(p139)。
それにしても、題名の『妻の沈黙(The silent wife)』って怖い言葉です。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『誘拐された犬』スペンサー・クイン 創元推理文庫

2017-09-12

Tag :

☆☆☆

きわめて優秀だが、猫がらみの理由で警察犬訓練所を卒業しそこなった大型犬チェットと探偵バーニー。ふたりが今回受けた依頼は、伯爵夫人の愛犬でドッグショーチャンピオン犬警護だったが、つい、おやつの横取りという怪挙に出て、即クビ。その後、夫人が愛犬とともに誘拐されてしまう!事件を取材していたバーニーの恋人で新聞記者のスージーも失踪。なにが起きているのか?貧乏探偵と犬力全開のチェットの黄金コンビが再び実力を発揮する、犬好き用リトマス試験紙ともいうべき、犬ミステリの大傑作『チェット、大丈夫か?』改題文庫化! 内容紹介より



〈名犬チェットと探偵バーニー〉シリーズの第二弾。
愛犬に対する脅迫状めいたものを受け取った伯爵夫人からボディガードの依頼を受けた主人公のひとりと一匹は、不始末をしでかして即刻解雇されますが、元依頼人が誘拐され事件の調査に乗り出します。容疑者はドッグショーでのライバル犬の飼い主、ヒッピーの二人組と闘犬にかかわっているらしい男、そして被害者の夫である伯爵、それから怪しげな地元の保安官とその助手。
誘拐、拉致、逃走、荒野での偶然の出会い、チョークチェーン、こういったパターンが前作『助手席のチェット』同様に繰り返されてややプロットが代り映えしません。今回は恋人が行方不明になっているのに解決まで時間がかかり過ぎのような気がします。やはり24時間以内には解決しないと、本来時間が経過するにつれてわき上がってくるであろう主人公(飼い主の方)の切迫感とか焦燥という心理が伝わって来なくて不自然に映りました。その辺りは語り手が犬だからなのかもしれませんけれど……。こういう設定はプラスとマイナスの二面性を抱えるみたいです。それから犬の優れた嗅覚が事件解決の大きな役割を担ってくれるのかと思っていたのですけれど、前回今回ともそういうところは見受けられずでちょっと残念でした。

『助手席のチェット』




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ジャンル : 本・雑誌

『美食家たちが消えていく』アレクサンダー・キャンピオン コージーブックス

2017-09-08

Tag :

☆☆☆

「なかなかいける」毒舌で知られるレストラン評論家が、ロブスターのラビオリの感想を口にした直後に命を落とした。その後も、パリの最先端レストランで次々と評論家が殺され、連続殺人の様相を帯び始めた。女性警視カプシーヌは、有名評論家の夫も標的になるのではと不安な日々を過ごし、捜査がいっこうに進まないことに焦りを募らせる。そして犯人が動きを止めてから約1ヶ月、エッフェル塔にあるレストランのリニューアルセレモニーという華々しい席で、カプシーヌは夫と危険な賭けに出ることに!白装束のピクニック集団に暗闇レストラン—奇々怪々なパリの最先端グルメ業界で起る、連続殺人事件の真相とは!? 内容紹介より



〈パリのグルメ捜査官〉シリ—ズ第三弾。
レストラン評論家を店内やイベントの最中に殺し、しかも死体に毒をモチーフにした細工を施すという大胆不敵な犯行を続ける連続殺人犯、複数の事件現場に居合わせた容疑者たち、奇抜な趣向のレストラン。捜査を仕切ろうとして口出ししてくる予審判事、評論家である夫の身を心配するヒロイン。コージーの形態を取った警察小説なのか、それともその逆なのか、雰囲気のゆるさと謎解きのレベルはコージーっぽいのですけれど、この二つの取り合わせはあまり良くないような気がします。特に今回は、『りんご酒と嘆きの休暇』よりも作品全体に散漫な印象を受けました。フランスの諜報機関から食事を届けてもらっている精神分析医(?)のホームレスに、ヒロインがプロファイルのために面会するシーンなどは、人物的には面白いにしてもさほど重要とは思えませんし、作品に狙ったインパクトを与えていない感じがします。また、ヒロインの夫やいとこに比べて薄い、彼女の部下たちの人物像はエピソードを付加して、もっと掘り下げたら面白くなるのではないかという気がしました。

『りんご酒と嘆きの休暇』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『雪の女』レーナ・レヘトライネン 創元推理文庫

2017-09-04

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☆☆☆☆

ロースベリ館。有名なセラピストである女主人エリナが女性限定のセラピーセンターを開設、敷地内に一切の男性の立ち入りを認めず、かつて物議を醸した。エスポー警察巡査部長マリア・カッリオは、依頼されてそのロースベリ館で講演をおこなう。数週間後、エリナが行方不明になり、館から離れた雪深い森の中で死体となって発見された。彼女はなぜ厳寒の中、ガウンとパジャマという格好でそんなところにいたのだろうか?当時館に滞在していたのは、なにやら訳ありげな女性ばかりで……。北欧フィンランドを舞台に、小柄な女性警官マリアが事件を追う。 内容紹介より



フィンランドではシリーズ作品ですが、邦訳はシリーズ四作目の本書が初めての作品です。北欧ミステリは、とにかく白夜とか雪による暗さとか重みで鬱々とした雰囲気をイメージしがちですけれど、本書では主人公のよく考える先に行動に移してしまう、きっぷがよいともいえる行動的なキャラクターのおかげでそんなイメージが軽減されているように感じました。ただ、予期せぬ妊娠のせいでとまどったり混乱したり、同僚に起きた出来事に衝撃を受けたり、事件の関係者の女性にまつわる過去に憤ったりと、フィンランド社会における女性の立場をふまえての傍白がかなりの部分を占めています。警察小説の形を取りつつ、一人称視点でフィンランドが抱えるいろいろな問題を取り上げる意図もあるように感じましたし、北欧というと高福祉、豊かな生活、幸福度が高いという印象が強いのですけれど、それがややくつがえされたように思いました。それから妊婦や赤ちゃんのいるお母さんはいろんなことを我慢したり、制限したりしなくてはいけない、本当に大変なのですね。




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  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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